三角の距離は限りないゼロ 感想
意図せず恋愛もの一辺倒、りゃおです
今回は『三角の距離は限りないゼロ』の感想です
二重人格 × 三角関係というテーマを高いレベルでまとめた素晴らしい作品でした
あらすじ
一人なのに「二人」な君と誰でもない僕の、トライアングルラブストーリー。
人前でどうしても「偽りの自分」を演じてしまう僕。そんな僕が恋に落ちた相手は、どんなときも自分を貫く物静かな転校生、水瀬秋玻だった。
けれど、彼女の中にはもう一人―優しくて、どこか抜けた少女、水瀬春珂がいた。
「一人」の中にいる「二人」…多重人格の「秋玻」と「春珂」。
僕は春珂が秋玻を演じる学校生活がうまく行くように手を貸す代わりに、秋玻への恋を応援してもらうようになる。
そうして始まった僕と「彼女たち」の不思議で歪な三角関係は、けれど僕が彼女たちの秘密を知るにつれて、奇妙にねじれていき―不確かな僕らの距離はどこまでも限りなく、ゼロに近づいていく。
これは僕と彼女と彼女が紡ぐ、三角関係恋物語。
感想
文章と展開の魅力
詩的な風景描写や簡潔でスマートな文章により、心地よいテンポで読むことができます
冒頭の水瀬秋玻との出会いからクライマックスまでの間のストーリーの組み立てに隙がなく、気をそらされることなく最後まで読み切ることができます
それによりクライマックスのインパクトが非常に大きく、とても気持ちの良い読後感でした
二重人格 × 三角関係というテーマとしては、あっと驚かされるような展開はなく割と予想の範囲内に収まったものです
しかし、それにも関わらず読んだ後の気持ち良さはやはりキャラクターの、特に秋玻と春珂の魅力によるものだと思います
キャラクターの魅力
主人公である矢野くんは、不誠実さと自分を偽ることに嫌気を感じながらも「キャラを演じる」ことをやめられないというコンプレックスを持っています
この等身大の弱さがとても共感しやすく、主人公の近くで読み進めることができます
また、春珂(と秋玻)への協力の持ちかけも、秋玻とお近づきになりたいという打算も含まれている部分がむしろ好ましいですね
恋愛ものの主人公としては(主人公らしく?)行動力は弱いものの、最後はしっかりと頑張ってくれます
そして秋玻と春珂について
堂々として自信ありげなクール系の秋玻
弱気ながらも明るく可愛らしい春珂
この全く逆な2つの人格がストーリーの魅力ーーーーーではないんです
読み進めれば読み進めるほど見えてくる、2つの人格それぞれが持つ、さらなる二面
賢しく、無邪気で
弱々しく、強かで
お人好しだけど、少し卑怯で
そんな矛盾したような様々な面を秋玻と春珂の両方が持っています
二重人格キャラでありながら、全く逆の性格”ではない”ところが、この作品の魅力なんだと思います
”夏”と”冬”ではなく、あくまで”春”と”秋”なんです
この間で揺れる感情が読み取れるからこそ、引き込まれるような切なく甘酸っぱいストーリーになっているのだと感じました
登場人物を極力少なくし、この3人の心情の深掘りに絞っていることでのめり込むようにキャラクターの心の動きに注目できる点は素晴らしいです
2回読む
一度読み切って、また最初から丁寧に読み直す
これをやると本当に切なさが倍増します
同じ作品を読んでいるはずなのに別の作品を読んでいるかのような新たな気づきがたくさん出てきます
どちらかというと春珂寄りの目線から見えていたものが、今度は秋玻寄りの目線で見ることができ、この切なさときたら
ああ、もう
とにかく一冊で2回楽しめる、いや2回読むべき作品です
さて、すでに2巻3巻が出ているので早速読み進めるとします
冒頭の手紙がなかなかに不穏な気配を放っているので少し怖いですが、楽しみです
(ところで、秋玻が”身をよじり”何かに気づいたって、卑猥な想像しかできないんですけど、そういうことなんですかね?)